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吉本ユータヌキ×佐渡島庸平
『おさんぽ恵比寿』インタビュー:
“街角に記憶が宿る瞬間”を描く“

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11月18日より恵比寿スカイウォークにて、吉本ユータヌキさんによる14日間の連続デジタルサイネージ漫画『おさんぽ恵比寿』が連載されています。

これは、〈街角に、物語を。〉のコンセプトのもと生まれた「STREET&BOOKS」プロジェクトの第2弾。なにげないけれどかけがえない日常のひとコマを、親子それぞれの視点で同時に切り取った作品です。

ユータヌキさんが「漫画家としても新しい挑戦だった」と語る本作。ユータヌキさんと編集者・佐渡島庸平さんのお二人に、創作時のエピソードを伺いました。

吉本ユータヌキ

吉本ユータヌキ(よしもと・ゆーたぬき)

1986年生まれ。大阪出身・滋賀在住の漫画家であり、3児の父。18歳から8年間活動していたバンドが解散し、サラリーマンとして安定に歩み直した矢先に子どもが誕生。成長を残す意味で描き始めた漫画『おもち日和』で、集英社より出版デビューすることに。2019年に会社員を辞め、2020年コルクに所属……と転がるような人生を送っている。無理しすぎない頑張りすぎないをモットーに、読む人の肩の力が抜けるようなエッセイ漫画を描く。

佐渡島庸平

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)

株式会社コルク代表取締役社長、編集者。1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年に講談社を退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行なう。従来の出版流通の形の先にある「インターネット時代のエンターテイメント」のモデル構築を目指している。

恵比寿風景

―― まず「STREET&BOOKS」という企画について、それから「恵比寿」という街に対する印象を、ユータヌキさん・佐渡島さんそれぞれから伺えればと思います。

吉本: デジタルサイネージで連載されるということで、どうすれば朝夕の通勤時間のほんの一瞬に足を止めて漫画を見てもらえるか、自分にそういう漫画が描けるかという不安はありました。ただ、初めのうちはチラッと見て「何か新しいことをやってるな」というくらいの印象だったとしても、何度か目にするうちに「見逃したエピソードも含めてゆっくり読んでみたいな」と思ってもらえるかもしれない。いろんな人が行き交う場所で連載するからこそ、出会い方もいろいろあって、それが面白そうだなと思いました。

佐渡島: 僕はまず、企画自体の内容がかなりチャレンジングだと思いましたね。「街角でストーリーを楽しむ」というのがどういうことなのか、パッと具体的にイメージできる人ってたぶん多くない。でも実際にそこで体験する人々にとっては、すごく面白いはず。普段本やインターネットで作品を楽しむことと、こういうふうに偶発的に作品に出会い楽しむことの違いは、連載されるものが平野啓一郎さんの小説でも、ユータヌキさんの漫画でも、同じところにポイントがあるんじゃないかなと思いました。

吉本: 恵比寿には2回くらいしか行ったことがないんですけど、非日常を感じるようなおしゃれな場所もあれば、ちょっと道を一本入ると隠れ家的な飲食店もあったりして、いろんなワクワクがあるイメージです。どこか一つの場所を目的にするというよりは、いつかゆっくり歩いてみたい街ですね。

佐渡島: 対照的に、僕にとっては、子どもの頃から知っているちょっと特別な場所です。小学校へ通うのに、恵比寿駅行きのバスを使っていたんです。だから「学校があるから途中で降りるけど、このバスに乗っていたら最後はあそこに行くんだ」っていう気持ちがあって、そこで「恵比寿=バスの終着点=特別な場所」というイメージが自分のなかに定着しました。大人になってからも仕事やプライベートでよく行っている馴染みのある街ですが、子どもの頃のそんな記憶がベースになっているのもあって、“好きな街”の一つです。

恵比寿風景

―― STREET&BOOKSの第1弾連載『竜の昇る日』についてインタビューした際、平野啓一郎さんは「土地への愛着は、それぞれの個人的な『よい思い出』と結びついた時に生まれる」とおっしゃっていました。

佐渡島: 何の変哲もない場所でも、自分ならではの意味や思い出が加わることで「自分にとって◯◯な街」という存在に変わりますよね。僕にしても、バスひとつによって「恵比寿は特別な場所だ」というイメージが出来上がっているわけですから。

―― 今回の『おさんぽ恵比寿』も、恵比寿が舞台ではありながら「恵比寿ならではの体験」というより、あえて日常のひとコマが描かれているのが特徴ですね。

佐渡島: テーマパークって、魅力と楽しみ方が明確でしょう。それに対して街は、「さあ、俺を楽しませてくれ」という受け身の姿勢では楽しむことができません。場所や施設に対して自分が積極的に関わって、自分の視点で“愛すべきところ”を見つけていく、その繰り返しで街を好きになっていくんだと思います。『おさんぽ恵比寿』においても、いかにも恵比寿らしい場所というよりは、なにげない街のあちこちに、自分の記憶がどんなふうに宿っていくか。ユータヌキさんの漫画は素朴な観察眼が魅力なので、そういう「街角に記憶が宿る瞬間」にふと気づく、きっかけになるような漫画を作れたらと思いました。

吉本: 大人にとっては「こういうもの」と当たり前のように溶け込む景色でも、子どもたちにとっては、高い建物や、ちょっと変わった建造物も、アトラクションのように感じるんですよね。『おさんぽ恵比寿』を読んでくださった方も、今すぐでなくても、この漫画を片手にいろんなスポットを訪れて、子どもの発言に自分がどう思ったのか、そこでのやりとりも含めて思い出にして、それをおうちで塗り絵や手紙で残してもらえたらと思います。それから、これまでも“子どもとの日常”をたくさん描いてきましたが、僕自身は『おさんぽ恵比寿』で、かなりいろんなことに挑戦しました。「何を描くか」「どう描くか」どちらについても今まで以上に考え抜いて、漫画を描くうえでの新しい発見もありました。企画の面白さだけでなく、作品としていいものができたと思っているので、今まで僕の作品を読んでくださっていた方にも、そうでない方にも楽しんでもらえたらうれしいです。

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